第1章 梅の花 嫉妬の謳(秀吉誕生祝い2017)
「美蘭はまだ帰らぬのか?」
夕餉のために広間の上座に座った信長が、
定位置である秀吉の隣に
美蘭が座っていないのに気づいてそう言うと、
武将たち全員の視線は、自然と秀吉に集まった。
「申し訳ございません。夕餉には間に合うように
戻れと再三言い渡しておるのですが…」
秀吉が、
恐れ多そうにそう言いかけたとき
パタパタと廊下を走る可愛い足音が聞こえた。
「…帰ったか。」
目を細め、嬉しそうにした信長の呟きは
いつもの世話焼きの声に掻き消された。
「こら!廊下は走るな!帰る時間も遅過ぎるぞ!」
「あ…はい。ごめんなさい。。。」
美蘭は、しゅんとうな垂れた。
「まあ良い秀吉。美蘭、側へ来い。」
信長が、美蘭を呼び寄せると、
「は…はい!」
渡りに舟…と、美蘭は、信長に駆け寄り、
信長の隣に両膝をついた。
「囲碁をしようと貴様を探しておったのだぞ。また梅林に行っていたのか?」
信長は、前髪に絡んでいる梅の花びらを
つまんで取ってやりながら言った。
「あ…そうです。梅林にいました。すみませんでした。」
「何が楽しくて通っている?面白いことがあるなら教えろ。」
「とにかく綺麗なんです♡朝には朝の、昼には昼の。夜には夜の美しさがあって…散ってしまう前に、少しでもたくさん眺めたくて…。刺繍の参考に絵も描いてるんです!」
梅の花を思い浮かべているのであろう、
うっとりと、そして嬉しそうな顔の美蘭。
「……綺麗…か。」
そういうおまえが美しいが…と思った信長は、
美蘭のこんな笑顔をずっと見ていたい。
そんな気持ちになった。
「決めたぞ。」
信長の一言に、
武将たちは耳をすませた。
「 3日後、梅林で花見がてら、秀吉の誕生日の宴を催す!」
「我がためにそのような…ありがたき幸せ。しかしながら、3日後とは少々急では…」
武将たちの心の声を秀吉が代弁しかけると
「急だが間に合わせろ。間に合わぬ奴は好きにするが良い。無論秀吉は必ず参加だがな。」
ピシャリと言い切った信長。
こうなった信長はもう止めることはできない。
秀吉誕生日の宴の開催は、決定した。