第11章 恋知りの謌【謙信】湯治編〜露天風呂 後編〜
この空間から抜け出せるのは、今しかない!と、
そっと立ち上がり入り口に向かおうとした
その瞬間
ガラ!と、また入り口の戸が開閉した。
(きゃあっ!!!また誰か来た…っ!!!)
美蘭は、慌ててまた岩の陰に戻った。
抜け出す機会を邪魔した輩を確認しようと、岩の陰からこっそり入り口に方を覗き見ると
そこにいたのは
(…謙信様…っ!!!)
領地の何処へ出かけても、知り合いや、謙信と知り合いになりたい人物に会ってしまう、謙信。
今も、露天風呂の入り口で、帰ろうとしていた隣国の大名と鉢合わせし、捕まってしまったため、3人にかなり遅れて入ってきたのだった。
愛しい恋人の登場に、
ホッと胸を撫でおろした美蘭。
しかし話し声で、奥にいる3人に裸の自分がこの場にいることに気づかれてしまったら困るので、
とにかく、謙信に近づこうと、
お湯の中を、しゃがんだまま謙信の方へ進もうとした。
その時
ガラ…と、
これまでよりは少々控えめな入り口の戸の開閉した音が聞こえた。
(……っ!!!今度は誰なの…ッ!?)
また、せっかく少し謙信に近づいたお湯の中の距離を後戻りして、元いた岩の陰に隠れなおした。
ドキドキの連続に、流石に息切れしてきた美蘭。
肩で息をして、必死に気持ちを落ち着けようとしていると…
聞こえて来たのは
「謙信…。」
鈴が鳴るような、うら若き乙女の声。
(…こ…の…声は…)
美蘭の心臓は、それまでと異なるイヤな音を立てた。
恐る恐る覗いてみれば
湯に入ろうと温泉に足を踏み入れ、膝下まで浸かった状態で入り口に身体を向けている、裸の謙信の後ろ姿と、
裸体をわざと見せつけるように、大胆に謙信と向き合って立っている、うら若き椿の姿が、目に飛び込んできた。
「抱いてくれ。この身体を…好きにしていい。」
(……?!!!)
震えている肩と声。
だがそれに反して凛とした覚悟したような瞳。
その若々しいまだ誰も触れていないだろう素肌から放たれる、採れたての果実のようは瑞々しさは、
女の美蘭から見ても、魅力的に映った。