第11章 恋知りの謌【謙信】湯治編〜露天風呂 後編〜
夕刻になり、謙信からの使いの人間が離れを訪れた気配で、昼寝から目覚めた美蘭。
信玄の我儘で、甘味屋近くの温泉に立ち寄ってくる…との伝言であった。
(ふふ。なんか信玄様って…可愛い人かも。)
信玄が謙信に我儘を言っている姿を思い浮かべて、美蘭は、思わず吹き出した。
謙信もあんな言い方をしていたが、信玄と幸村に御礼をしたくてこの湯治の機会を作ったに違いないのだから、
ゆっくりみんなで一緒に湯に浸かってきて欲しいと思った。
美蘭は、
ひと眠りして身体が軽くなり、
気分も浮上していた。
(今夜は遅めの夕餉にするって言われていたし。謙信様たちがお風呂なら…わたしも入りに行こうかな。)
ここ吹田の領地内には、湯治場というだけあって、温泉がいたるところに湧いている。
先ほどの使いの人間が、少し歩くが、複数の露天風呂が人気の温泉があると、地図まで記して教えてくれた。
湯治場として、女子や子供も安全に楽しめるように…と、吹田軍が日夜見回りを欠かさぬ環境のため、非力な美蘭が1人で夕刻に出掛けても安心なのである。
(この離れのお風呂はいつでも入れるし、行ってみよう♡)
美蘭は、支度を始めた。
「気に食わん!!!」
ここは安土の武将たちが滞在している離れ。
昨日も謙信に美蘭との再会の邪魔をされ、
今日は他の小娘とばかり一緒にいて美蘭に不安な思いをさせているようだと報告を受けた秀吉は、烈火の如く怒っていた。
「死んだと言って生きていたり…美蘭をきちんと安土に帰さず我等から奪うように連れ去った挙句…泣かせているとは許せん!」
「でも美蘭さん…幸せだと言われていました。」
昼間、草原で政宗にそう言っていたのを思い出しながら、三成が呟くように言った。
「どうだかな?色が絡むと、不幸なのに側にいるだけで幸せと勘違いしたりするからな。」
政宗が、吐き捨てるように答えた。
「女嫌いに死んだふり…面倒くさそうな奴。」
家康がため息をつきながら呟く。
「ならは本人に確かめてみるか。」
そう言うと、信長は、ニヤリと口端を上げた。