第9章 恋知りの謳【謙信】湯治編 〜月夜の宴〜
「お前と幸村には…感謝している。」
色違いの瞳は、信玄をまっすぐ見つめた。
信玄の口添えがなかったら…
甲斐の虎の機転がなかったら…
今謙信と美蘭は、どうしていただろう。
そもそも信玄の存在が、謙信と美蘭を結び付けたと言っても過言ではない。
感謝など、してもしきれないのだ。
「男に見つめられても嬉しくないね。安心しろ、感謝してるだろうと思って、遠慮せず高い酒ばかり注文してやっている。」
信玄は、徳利をユラユラさせながら、言った。
「…ふ。そうか。ならば良い。」
謙信も、また酒を口に運んだ。
「お前が帰ってくる前。美蘭も俺たちに感謝していると頭を下げてきた。」
似ているというのか。
お似合いとでもいうのか。
間違いないのは、
そんな2人だから強く惹かれ合うのだろう…ということ。
「二度と手放すなよ。」
もし万が一そんなことがあれば
その時は俺も黙ってはいない…と思いを込めて
謙信に鋭い視線を向けた。
「手放すものか。」
もう手放したら、俺は生きてすら行けない…と。
絶対に手放さない。
そう強い意志を込めた視線を、信玄に返した。
2人の静かな酒盛りは、まだまだ続く。
月だけが、見ていた。
恋知りの謌【謙信】番外編〜月夜の宴 〜
完
→露天風呂編に続きます♡