第1章 梅の花 嫉妬の謳(秀吉誕生祝い2017)
「秀吉にございます。」
秀吉は、天守を訪れていた。
「来たか。入れ。」
「はっ。」
襖を開けて中へ入ると、
信長は脇息にもたれかかりながら、金平糖をつまんでいた。
「本日は、あのように立派な誕生日の宴を…誠にありがとうございました。」
秀吉は深々と、床につくほどに頭を下げた。
「貴様、宴の最中…ずっとつまらん顔をしていたな。」
信長は、
鋭い眼光で秀吉を見据えながら言った。
「…!そのような…ことは…、、。」
全て見透かされているような物言いに、秀吉は僅かに取り乱した。
どう取り繕おうか考えようとした瞬間
「そうか?俺はつまらなかったがな。」
更に続いた信長の呟きに、
「……?!」
場の空気が凍りついた。
暫し続いた沈黙。
「……それで…御用件は何でございましょう。」
何を言われた訳でも無いのに、追い詰められた心情の秀吉は
本題に戻ろうと姿勢を正したが、
「貴様が、俺に話したいことがあるのではないかと思って呼んだだけだ。」
「…!!!」
またも追い込まれる。
「わかっておろう。美蘭のことだ。」
「……美蘭の…。」
ついに信長とこの話をする日が来てしまったと、
秀吉は緊張し、固唾を飲んだ。
信長を尊敬し、信頼し、
心より仕えて来た秀吉。
信長の大義のためなら、
信長を守るためなら、
己が命すらいつでも投げ打つ覚悟である。
信長のためになる事であるならば、
何度となく苦言も呈して来た。
だが
信長が望むものを
自分も欲しいなどと言って良いものだろうか。
美蘭が欲しいと
言っても良いのだろうか。
勇気がないからではない。
信長への忠義ゆえに、繰り返してきた困惑であった。
「フン。貴様……つまらん男だな。猿。」
信長の地を這うような低音が、言った。
「その程度の覚悟なら、金輪際美蘭に近づくな。」