第5章 囚われの謌【光秀】共通ルート
「それで…何故ここで百面相している。」
南蛮渡来の珍品から日常の品まで取りそろえている店の前で、何やら悩んでいた様子の美蘭。
「えっ?!そんなに変な顔してましたか?」
変な顔…などと揶揄いながら
その実、珍しく斜め横で一つに束ねられた編み込みの美しい髪型と、それにより普段は隠れている首筋が露出している美蘭に、光秀の胸はトクリと高鳴ったのであったが、
「ああ。かなり変な顔だったな。」
「ええっ??!」
心にもないことを言って、予想を裏切らない素直な反応を楽しんで、疼く気持ちを誤魔化した。
「どっちにしようか、迷ってたんです。」
美蘭の目線の先には、金平糖。
(…信長様へ贈りたいのか。)
そう察しがついた途端に、光秀の心は落胆した。
「これと、これ…どっちにしようかなって。」
美蘭が手にしたのは、濃淡様々な青と白の金平糖だけが詰まった瓶と、色とりどりの金平糖が詰まった瓶。
「どっちも買えばいいだろう。」
「…買えないよ。お針子の御給金で買うんだもの。」
金平糖は、この戦国の世では高価な菓子であった。
信長に寵愛を受けて何不自由ない生活も叶うのに張り子仕事をしている美蘭。
ほかの張り子たちと同じ条件で働いているのだから、手にしている額などたかが知れている。
だが、そうして必死に貯めたお金でやっと購入しようとしている金平糖が、いたく価値のあるものに見えた。
それを受け取る信長に、嫉妬の念がよぎった。
「そんなもの…俺が買ってやる。おい、この2つをもらう。」
光秀は、美蘭の、自分が働いて得た金で贈りたいという信長への思いに気付かない振りをして、店の主人にどちらも包ませた。
「えっ?そんな…!あ、ご主人、1つ分はこれで…」
財布を出す光秀の横から、
1つ分の金を必死に出した美蘭。
どちらを立てて良いのやら…2人の顔色を伺う店主に、
光秀はため息をつきながら、美蘭の金を受け取ってやれ、と視線で促してやった。