第5章 囚われの謌【光秀】共通ルート
諜報の仕事で出かけていた他国から安土の領土に戻ってきた光秀。
根無し草を自称している光秀は、安土に自分の居場所など求めたことはないのだが、
安土の土を踏みしめた途端、ほっと気が緩んで、
そんな自分自身に苦笑した。
(全く。近頃の俺はどうかしている。)
諜報の仕事上、敵地に赴くのは勿論の事、
敵兵の懐に入り込むために敵であろうと関係を深めねばならないこともあるし、それが故に、安土の中で秀吉のように自分を警戒する者が現れることもある。
騙し、騙され、疑われ…
それが諜報を任された光秀の日常である。
正直、感傷的になどなっていたら、心などいくつあっても持たないであろう。
だか光秀はもともと、周りの雑音が気にならない性分。
更に組織にも場所にも拘束されるのが苦手。
よって、
今の諜報の職を天職だと思うことすらあれ、
家族を残して任務に出ている者などには辛く厳しいものであろうが、光秀は辛いなどと思ったことはなかった。
だが今回
半月ほど他国に潜伏し、欲しい情報が十分得られ安土に帰れるとわかっだ瞬間
初めて早く帰りたいと思った。
「……っ。」
大通りまでやって来たとき、
光秀に帰りを急がせたモノが目に入ってきた。
流行る気持ちで
少し足早に、ソレに近づいて…
「そろそろ日が沈むぞ。こんな所で何をやっている。」
そう言ってやると、
「ひゃっ!!!…え?…光秀さんっ?!」
ソレは、光秀の予想通り、驚いた顔で振り返った。
「色気のない声だな。美蘭。」
ニヤリと笑いながら言い放つと
「ええ?!いつ安土に戻ったんですか?」
揶揄われ一瞬眉を寄せた美蘭であったが、久しぶりの光秀に、素直な疑問を投げかけた。
「たった今だ。」
言葉少なに答えると、
「…!そうなんですか!お帰りなさい!」
「……っ…。」
ソレは、笑顔の花を咲かせた。
ソレは、美蘭。
わが君主 信長様の寵愛する女。
わが君主 信長様を愛する女。
俺の胸を騒がせ、
安土を恋しいなどと、
この俺に
里心なんぞを植え付けた…女。