第4章 恋知りの謳【謙信】
謙信の、強く強く美蘭を抱き締めていた逞しい腕の力が、ふっと脱力した。
やっと、自ら謙信に手を伸ばしてもいいのだと実感できた美蘭が、謙信の顔を見上げようと顔をあげると、
色違いの瞳が差し迫り
「謙信さ…っ…ん…う…っ。」
唇を奪われた。
何度も唇を啄ばみながら、
髪、肩、腰…と、存在を確かめるかのように這い回る手のひら。
美蘭の身体には、たったそれだけで甘い電流が走った。
そのまま甘い快楽に流されそうになるも、自分が今土埃にまみれているのだと気付いた美蘭は、
止まらぬ口付けからやっとのことで逃れると、謙信の肩を押し抵抗した。
「謙信様…馬で駆けてきてそのままで…汚れてます…」
すると謙信はたちまち不愉快そうな顔になり
「どんなおまえでも構わん。今すぐ欲しいのだ。」
余裕のない顔でそう言った。
「…っ!」
(…そんな殺文句言われたら、拒絶できないよ。)
美蘭の胸はキュンと鷲掴みにされてしまった。
降参である。
「わたしだって…どんな謙信様も愛しています。」
そう言って素直に謙信の首に手を絡めると
「…っ…おまえという女は。どれだけ俺を追い詰める気だ。」
頬を紅潮させた謙信は美蘭の抱擁に答えるように、噛み付くような深い深い口づけを返した。
2人の粘膜と粘膜が絡み合い
ちゅ…ちゅ…と水音を響かせながら繰り返し口づけを交わしているだけで、美蘭は身体の芯がジワリと疼き始めた。
いつの間にか帯を解かれ、着物も取り去られ、
2人は生まれたままの姿になると、
全身でお互いの存在を確かめ刻みつけるように、抱き合った。
(謙信様の体温。…あったかい…。)
これから未来永劫
この愛しい体温とともに生きていけるのだ、と。
美蘭は幸せを噛み締め、無意識に頬を緩ませた。
「愛らしい表情(かお)だな。」
気づくと謙信にじっと見つめられていた。
初めて繋がった夜とは異なり、まだ黄昏時で明るさが残っている今、表情も、身体の隅々までも、しっかりと見ることができる。
「そんなに見ないで下さい。」
急に恥ずかしくなった美蘭が顔を赤くして視線を外すと
「出来ぬ相談だ。」
謙信は愛しそうに目を細め、ふわりと笑った。