第1章 能力の在る者
それは唐突だった。担任教師が手をパンパンと叩くと……
「今日は転入生を紹介します」
その言葉を聞いた生徒達は謙遜に包まれた。
「どんな人かなー」
「可愛い子か、美人がいいなー。それか有名人で」
女子男子共にザワザワとそんな話声が聞こえる。
「じゃあ、入ってきて~」
教師の間の抜けた声で呼びかけるとガララッと音を立てて戸が開き整った顔立ちの少年が入ってきた。
すると、たちまち女子たちの黄色い声が飛び交う。
「え?ちょ、イケメンじゃない」
「私の隣がいいな~」
「はいはい、静かに~。転入生の音無カオル君です」
相変わらずやんわりとした教師の声。
「そうだね~。じゃあ、一番後ろの茂木さんの隣ね」
「え~」 「いいな~」
そんな言葉が茂木の耳に届くと、
「だったら、私と誰かが席変わればいいんじゃない?私は誰と席が変わっても別にいいから」
すると女子たちが一斉にジャンケンを始め、男子たちはその様子を呆れながら見ている。担任は、「だめよぉ~」と止めに入っている。
その間に音無カオルが教室から抜ける姿が目に入り、茂木は後を追った。
「ちょっと、教室抜けて何処行くの」
と聞くが返事は返ってこない。高校の一階の廊下を暫く歩いてから、
「………いつまで着いてくんの」
そう冷たい声が帰ってきた。
茂木はこう返した、
「授業始まるけど教室戻んないの?」
「教室に戻る?戻るわけないだろ、俺なりに用事がある。着いてくるな。」
「何で?用事より授業のほうが大事だと思うけど今しなくちゃいけないの?」
「嗚呼……だから着いてくるな。」
「じゃあ、私も着いていく。最近物騒だから……音無くんだっけ?知らないかもしれないけど………」
「何が?」
興味あり気に立ち止まり、初めて此方を振り向いた。
「ここら辺では、最近無差別殺人事件が多いの。犯人は未だ捕まって無いって。警察は力を上げて捜査を厳重にしてるらしいの」
「私も昨日、其の現場を学校帰りに見たんだけど……」
「其処何処なんだ」
「まさか、そこに行くの?警察は今も其処に居ると思うけど」
「其の殺人現場の他には……」
「えっ、商店街の路地裏だけど」
「其処に案内しろ」
「良いけど、如何して?」
「質問には答えない……それと死にたくなかったら自分の身は自分で守れ。俺は助けない」