第1章 待ったなし。
「……げ、出た」
何が出たか?
それは……まだ少し大きな学ランを身につけ、今日も今日とて相変わらず不機嫌にまゆを潜めて私のオアシスである、アパートの前に突っ立っているくそガキです。
「おっそ」
私の姿を確認するなり、第一声がこれだ。
可愛くもなんともない。
「動き、とろすぎ」
私はよく思う。
こいつは私を苛立たせるのが世界一上手い、と。
「可愛い可愛い近所の中学生がこんな寒い中待ってたっていうのに、労りの言葉もないの?」
労りの言葉?
ふざけてんのだろうか。
私がこいつにかける労りの言葉など、あるわけがない。あってたまるか。なんて図々しい。
「よく言う。元でしょ?元、近所。今は普通に遠いじゃない」
いつからだろうか。
こんなにも嫌なガキになってしまったのは。
でも、これだけは覚えている。
こいつが小学六年生の時は、もうすでに今のくそガキ状態が出来上がっていた。