第10章 番外
身支度を整えて部屋に一人、時間が来るまで備え付けられたドレッサーに腰を落ち着けていた。
目の前にある鏡を見ると、綺麗に結い上げられた髪に施された化粧でまるで別人のような自分と目が合った。
鏡の中の自分にそっと手を伸ばして触れる。
動かした腕に連なって、耳を飾るピアスが揺れた。
自分で言うのも何だが、こんなに綺麗だと思える自分を見るのは初めてだった。
そして過去の思い出が蘇る。
幸せばかりで、くすりと笑みを零した。
出逢いは高校。
偶然隣の席になっただけだった。
高校生ながらに現役モデルとして活躍していた彼は、話してみると案外気さくで話しやすかった。
芸能人というだけで一方的な印象を持つのはよくないと思い直したのを覚えてる。
話す機会が増えて、クラスメイトから友達になって、友達から好きな人になった。
けれどモデルの彼を相手に告白する勇気なんて私は持ち合わせていなくて、友達という関係に甘えて妥協してた。
あの時は意気地なしだったと過去を振り返り笑って話してくれた彼。
私だって同じ事だった。
彼があの時汗だくになりながら会いに来てくれなかったら、私は今ここにいない。
彼が懸命に想いを伝えてくれたおかげで、私は今とても幸せだ。