第5章 05
苗字さんに甘えようとした訳でも、苗字さんの時間を独占しようとした訳でもない。
今までの経験上優しい君は見過ごせず付き合ってくれるんだろうなと思った。
その前にしっかりこってり怒られるんだけど。
「もう!いい加減にしなさいっ!」
ぎゅっと手に力を加えて耳を引っ張られた。
女子の力といえど耳は痛い。
あまりの痛さに涙が出るかと思った。
「いだだだだっ、痛っ!痛いって苗字さん!」
浮かびそうになった涙を叫ぶ事で引っ込めた。
痛い。けれど、感じたのは痛みだけではなかった。
「まったく、仕方ないなぁ」
ふざけて耳を抓っていた手を離して苗字さんが笑う。
ほらね、結局そうやって力になってくれる君はやっぱり優しい。
耳赤くなっちゃったねと言って今まで抓っていた耳を、ごめんねと謝りながら苗字さんが撫でた。
感じたのは痛みだけじゃない。
君の肌や体温に直に触れてどきどきした。
指先だけでこんなにもどきどきするのは苗字さんだけだ。
俺の耳が赤いのは、きっと君と触れ合ったせい。
苗字さんを近くに感じたせい。