第1章 01
揺れる事もなく静かに発車した新幹線に君と俺の二人。
飛び乗ってすぐに閉まった扉にもたれ掛かって袖で汗を拭った。
駅のホームで冷やかすクラスメイトたちの声はもう聞こえない。
とりあえず発車時刻に間に合ってほっと息をつくけど、走って乱れた息はまだ整わない。
数度荒く呼吸を繰り返して、目の前にいる君を見る為に顔を上げた。
信じられないと言ったように見開かれた目が瞬きもせずに俺を見てた。
これがラストチャンスだと思ってもなかなか言葉が出てこない。
沈黙が続いてしばらくお互いを見つめ合った。
無言の空気を遮ったのは車内アナウンス。
次の停車駅の案内だった。
時間がない。
決意を新たにぐっと拳を握った。
「黄瀬くん?」
「ねぇ、苗字さん」
話しかけたのはほぼ同時。
少し大きめの声で強めに名前を呼ぶ事で無理矢理発言権を獲得した。
出発してから一度も逸らされる事がなかった目をこれまでのように…いや、今まで以上に強く見つめた。
離さない。
意思が伝わったのか、苗字さんが視線を逸らす事はなかった。