第6章 真昼の夢(十四松)
〜専門学校を卒業して学生最後の春休み、おもしろい男の子と友達になった…〜
デザイン系の専門学校に2年間通い、無事就職も決まって、3月に入ってすぐ卒業式があった。
4月からは社会人になる予定だけど、3月はまるっと春休み…
毎日暇して過ごすのは嫌だから、前からやりたかったことをしようと思った。
わたしのやりたかったことは…1日1枚絵を描くこと。
この赤塚区の町は、昭和の風情が色濃く残っていて絵になるなぁ…
散歩をしながらどこで絵を描こうか考える。
今日は日射しが柔らかで春の気配を感じる気候だな…
この川沿いの風景なんてどうだろう?
よしっ決めた!
スケッチブックとペンケースをリュックから取り出して、早速描きはじめる。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
川の中でバチャバチャと音を立てて、何かがすごい勢いで通り過ぎていった…
「えっ!なに?!人間?!」
一瞬だけ黄色い衣類のようなものが見えた気がする…
気になってしょうがなくて追いかけてみるけど、追いつきっこない…
あぁ… 何か楽しそうなことが起こる気がしたのに…
諦めて絵の続きを描こうとすると…
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
また戻ってきた!
「待ってください!!」
大きな声で呼び掛けてみた。
すると… その何かはピタッと止まり、わたしの方を向いた…
ん? 男の子?
黄色いキャップに黄色いユニフォームらしき服を着た男の子…大きな真っ黒な瞳に、笑顔のかたちに開かれた大きな大きな口…マッシュルームヘアのような髪型で、つむじからぴょんとアホ毛が1本だけ飛び出している…
話をしてみたいな…と直感的に感じた。
「あのっ…ちょっとお話ししませんか?」
恐る恐る声をかける…
「僕? いいよ」
男の子が笑顔で返事をしてくれた…
川岸のところまで泳ぎ、土手を登ってこっちに近付いてくる…
わくわくする反面、緊張してしまうなぁ…