第1章 これを恋と呼ぶのなら1(おそ松)
この春から社会人になった。
働くということの大変さは、先生からも親からも先輩からもさんざん聞かされてきたはずなんだけど、身をもって感じたという在り来たりな表現がぴったりな毎日だ。
慣れない電車通勤で自宅と職場を往復する日々…仕事が終わるとへとへとで、遊ぶ気力も残っていない。
仕事帰りに、自宅近くのコンビニでちいさなスイーツを買い求めることがささやかな幸せだ。仕事以外で人と関わりを持つ余裕なんて全くない、生きてることで精一杯だった。
5月初旬のある日、いつものようにコンビニで買い物を済ませて店の外に出ると、私と同じ年頃の男の人がいることに気がついた。
店の脇にあるポールに腰を預けて、ビールを飲んでいる。
赤いパーカーに色落ちしたジーンズ、赤いスニーカー…赤が好きなんだな、というのが最初に感じたこと。
人懐っこそうな大きな瞳、笑みを浮かべたような口元…その口元に缶を近づける。
ごくりごくり、と彼がビールを嚥下するたびに喉が上下に動くようすが見えた。
迷いのない仕草だな…
ふと、そんなことを思った。