第6章 ~恋と恋の、あいだ~(松川 一静)
母さんたち女性陣に囲まれて
まだ緊張した表情だけど
少しずつ笑顔も出始めた嫁さんを見ながら
そんなことを考えていたら、
『おい一静、自分の嫁さんに見とれるな!』
『幸せボケした顔しやがって、このー!』
…と、おっちゃん達にどつかれた。
『見とれてねーし。』
『いや、顔、デレデレだったぞ。
小料理屋の未亡人美人女将で
担当患者の嫁さん…なんて言われちゃ
俺でもジロジロ見たくなるけど。』
『…ちょ、おっちゃん、
人の嫁さん、エロい目で見んなよ!?』
『見る見る、だってお前、
それ、男の夢とロマンじゃーか!』
おっちゃん達が、がはは、と笑った。
『まぁ、夢が見られるうちは見とけ。
今は"俺が守る"とかなんとかって
カッコいいこと思ってるだろうけど
10年後には、立場、逆転してっから。』
『それは、人それぞれだろー。』
『青いなぁ!一静、まだお前は、青いっ!』
『そうだぞ。
うちのかかぁだって、結婚した頃は
控えめで奥ゆかしくて優しかった!
ついでに痩せてたし(笑)』
『(笑)』
『女がどんどん強くなるのは
自然の法則だから、逆らうな。』
『静ちゃんや綾ちゃん見てりゃ
お前もわかるだろ。』
『そうかな?』
『そうさ。
…見てみろ。俺らがこうやって
酒飲んでグダグダしてる時間も、
家事しながら子どもの相手もして
仕事のことも考えながら雑談もして
ああやってケラケラ笑えるんだぞ。
逃がれられない現実を、全部乗り越えて
走り続けてんだ。勝てるわけねぇさ。
…あんだけ強くなったら、そりゃもう
尊敬の意を込めて、尻に敷かれてやれ。
それが亭主に出来る、かみさん孝行だ。』
『まだ俺には全っ然わかんねーな(笑)』
『大丈夫だ、静ちゃんの息子なんだから
お前も立派な敷物になれる。』
『敷物(笑)』
…笑ってしまったけど。
結婚しないままだった、母さん。
結婚生活を終わらせた、綾ちゃん。
結婚生活を失った、嫁さん。
そんな人達に囲まれた俺だからこそ、
"一生、夫婦"という道を歩んでみたい。
…例えその先に待つ俺の未来の姿が
"立派な敷物"だったとしても(笑)
どれが正しい、とかじゃなく。
"添い遂げる"ことを
きっと望んでいたのに果たせなかった
元旦那さんや父さんの分まで、
生きてみたい、と思うから。