第5章 ~コータロー君の、初シツレン~(木兎 光太郎)
"それでは、卒園生の入場です!"
いよいよ卒園式の始まり。
かわいい子供達の成長した姿に、
どこのお父さんもお母さんも
みーんな、涙を流しながら
ビデオや写真をとっています。
卒園証書をもらったあと、
一人づつ、将来の夢を発表するのが
このふくろうの森幼稚園の
卒園式の恒例行事。
『ボクトコータローです。
オレは大きくなったら、
バレーボールのせんしゅになります!
つよくて、かっこよくて、にんきものの
にっぽんだいひょうになります!』
ビデオを撮っていた双子のパパは、
びっくりしてママに聞きました。
『え?バ、バレー選手?!
光太郎はこの間まで、確か、
大金持ちの社長になるとかって
言ってなかったか?』
『うふふ、それがね、
ついさっき、変わったの。
男を突き動かすのは、やっぱり、
追いかける恋とライバルの存在なのね…』
『…恋とライバル?何の話だ?!』
なにがなんだかわからない顔の
パパを横目に、
ママは温かなまなざしで
双子たちを見つめます。
どんな未来になるかは
まだわからないけれど。
今日は確かに、
双子にとってもパパママにとっても、
そして綾先生にとっても、
とっても大事な区切りの日。
…あ、
卒園の歌が聴こえてきました。
伸びやかで清らかで素直な歌声は、
見守る大人たちの心に
スーっと染み渡りながら響きます。
それぞれの旅立ちを祝うように、
ふくろうの森幼稚園の庭には、
やわらかな春の日差しの中、
桜の花びらが舞っていました。
光太郎君、初めての失恋は、
その後の彼の人生に大きく繋がる、
"意味のある"失恋だったようです。
ご卒園、おめでとう。
二人仲良く、元気な小学生になってね!