第4章 ~いつか叶う、恋~(西谷 夕)
1年後。
私は、優人をつれて離婚した。
住む場所や仕事は
一年の間にちゃんと見つけておいた。
離婚に関わるあれこれも、
市の司法相談会などを利用して
短い時間で段取りよく
弁護士さんに確認して準備した。
彼のこの一年の行動も記録して、
浮気してることもわかったから、
それを一番の理由にして
両家の親にも離婚を認めさせた。
…いろいろ大変といえば大変だったけど、
"文化祭の準備をするように"
目の前のことをひとつづつ、
"俺に数学教えるより大変なことなんて
きっと他にないから、大丈夫!"
と言ってくれた西谷君の言葉で
自分を励ましながら。
もう、卒業以来何年も会ってないのに、
西谷君は今でも私の心の支え。
離婚してからも、挫けそうな時は、
ガリガリ君の当たり棒と
"さんきゅー"のメモを見た。
あの時、西谷君、
"俺のラッキー、わけてやる!"…って言った。
西谷君は、ウソは言わない。
きっと私にも、ラッキーがくる。
もう、人見知りなんて言ってられない。
助けてくれるあらゆる人に
優人も私も支えてもらいながら、
なんとか二人の暮らしにも慣れてきて、
やんちゃ盛りの優人を
スポーツクラブに行かせることにした。
毎週月曜だったスポーツクラブを
私の仕事のシフトの都合で金曜に変えて、
今日は最初の日。
知らない友達や初めての先生になって
きっと優人も緊張しただろう。
早く迎えに行ってあげなくちゃ。
そしたらそのまま買い物に行って…
ご飯は何にしよう?
今日はゆっくり、
金曜クラスの話を聞いてあげたいな…
夕方のラッシュをようやく抜け、
私の軽自動車が
スポーツクラブの駐車場に滑り込む。
ガランとした駐車場。
もう、送迎バスも出発したみたい。
きっと優人はひとりぼっちで、
受け付け前のソファに座って
いつものように
入り口をキョロキョロ見ながら
私が走ってくるのを待ってるはず。
…車を止める。
来る途中で眺めた優人の写真と絵、
西谷君のメモと当たり棒は、
大事なものを入れる小さなポーチに
きちんと片付けて。
優人、お待たせ。
今、ママが行くからね!
…車を降り、
スポーツクラブの入り口へ走る。
『ゆうと、遅くなっちゃった~。
今日も待たせてごめんね!!』
そう言いながら
いつものように扉を開ける、
すっかり逞しい、シングルマザーの私。