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~愛ではなく、恋~【ハイキュー‼】

第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)



いてもたってもいられなくて、
ハート型のストローから
猛スピードでジュースを吸い上げた。

『ケイ君?』

『…来い、急ぐぞ!』

ごみをゴミ箱に投げ入れて、
綾の手を取って走る。

『お腹、タプタプ…』

『俺もだよ!』

周りのカップルが、
何事かと時々振り向くけど
かまわない。

しっかり手を握って、走る。
エレベーターを待ちきれなくて、
エスカレーターも遠かったから、
階段を走った。

『ケイ、君、どこに…』

『…あそ、こ、…』

アウトレットモールの端の、観覧車。

営業時間ギリギリで、
アルバイトらしき兄ちゃんが
そろそろ片付けようかと
チェーンを持ってドアから出てくる。

『た、のむ、乗せて、くれ…』

あまりに息を切らした俺たちを
気の毒に思ったのか、
兄ちゃんは笑いながら

『どうぞ。今なら貸しきりですよ。』

俺たちの後ろに"close"の看板をたて、
チェーンをかけて、中に入れてくれた。

スケルトンの、
シャボン玉みたいな小さな空間。

『7分間の空の旅、
夜景も夜空も貸し切りです。
いってらっしゃい。』

そんな気の利いた言葉と共に
カシャン、と、ドアが閉まる。

手を振って見送る兄ちゃんの目に、
俺たち二人は
どんなふうに見えているのだろうか。

やがてその姿が小さくなった頃、

目の前に、
宝石みたいな光が広がり始めた。


7分間の空の旅が
俺達の、最後のデート。


…時間は、カウントダウンで減っていく。


1秒も、無駄にしたくなくて。


『…綾、』

向かい側に座っていた綾の手を
引き寄せて、隣に座らせた。

『か、傾いちゃうんじゃない?!』

『いい。落っこちる時は、
俺が抱き締めててやる。』

ギューッっと、肩を抱き寄せた。



『…きれいだね。』

『あぁ。』



『あそこ、河川敷。花火大会の。』

『あっちの山の上から、見たな。』



『体育館、あの辺?』

『みんな、練習中かぁ。』



『あ、新幹線!』

『新幹線で食った牛タン弁当、
旨かったなぁ!』


夜景を見ている綾の横顔に、

…キス。

驚いてこっちを見た顔に、
…また、キス。

形に残るものは、
何もあげられなかったから。

せめて、
最後の最後の瞬間まで、


思い出でいっぱいにしよう。


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