第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
『俺が声、かけるよ。』
そう約束はしたものの、
後で、ちょっと後悔する。
…よく考えたら、面倒で。
基本、俺は、
自分からは女の子に声をかけない。
こっちから声かけて
勘違いとかされたら面倒くさいから。
ましてや、
他人の恋…というより性欲?…
のために声かける役なんて
"及川王子"のやることか?
まっきーとか金田一とかいたら
やってもらうのになぁ…グズグズ…
だけど翌日から、木兎は、
昨日の不調が信じられないほど
絶好調、だった。
『オイカワッ!声、かけた?』
『まだだよー。昨日の今日じゃん。』
『そっかー、ま、確かに
焦ったらカッコわりぃよな。
そっちは任すからさ、トス、あげてっ!』
…羨ましいほどの立ち直り。
これでいい。これでいいんだ。
調子をあげてくれれば、こっちのもん。
その翌日。
『オイカワッ、声、かけた?』
『ごめん、まだ。焦りは禁物だってば。』
『そっかぁ。
俺だったら猛烈に誘っちゃうもんなぁ。
それがダメなんだよな、きっと。
オイカワのテクで、頼むなっ。
俺は絶好調だからっ!』
…ものすごい集中力。
これが本当の試合中だったら、
ちょっとやそっとじゃ負けないはず。
だんだん追い詰められるのは、俺。
こんなハイペース、
いつまでももたないだろ?
なんとかしてやんないとな…
さらに翌日。
『オイカワッ、声、かけてくれた?』
『ごめん、まだ。』
『…そっかぁ。
やっぱ俺、自分で行ってみっかな。』
それは、ヤバイ。
もしこれでまた断られたら?
次の試合は明後日の土曜日。
絶不調で当日を迎えることになるのは
目に見えている。
『いや、俺が行く。
今日は絶対、声、かける。
だから、心配しないで
コタローちゃんは練習に専念して。』
疑うことなく
ニカッと俺を見る木兎の笑顔が
眩しい…痛いほど。
相棒のため。
それは結局、
俺自身のため。
えぇい、口説くわけじゃない。
ナンパするわけでもない。
普通の、
ちょっとした頼み事だ。
仮に断られたとしても、
別に俺がフラれたわけじゃないし。
いやいや、
断られるわけにはいかない。
及川スマイルで
口説けない女はいないハズ。
…確かにクール女子は、苦手だけど。
そんなことを思いながら、
その日の練習の後、
俺は一人、データルームへと向かった。