第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
『な、な、今から見に行かね?
ちらっと。ちらっとだけ。な!』
『どこに?』
『あっち。』
『…学内に、いるんだ?』
『今なら、まだいるはず~。』
…驚いたことに、その相手は
案外、近くにいる、というので、
とりあえず、木兎についていくことにした。
部室棟を出て、
体育館を通りすぎ、
陸上部がまだ練習している
グラウンドを横目に見ながら
木兎が入っていったのは、
研究棟。
さらに階段を上がって、
『こっち?…計測室?』
『の、奥。』
計測室は、時々行く。
アスリートの身体を調べるための
計測機器やマシンが並んでいて、
時々、ここであれこれ調べられる。
『この奥?
そういや、行ったことないなぁ。
何の部屋があるんだっけ?』
見上げたプレートには
"データルーム"と書いてある。
『計測室で調べたデータをさ、
解析するためのパソコンとか、
調べたデータのファイルとか、
あと、文献とかがある部屋。』
今まで木兎と話したなかで
一番、知的な言葉じゃないか?(笑)
『コタローちゃん、よく知ってるじゃん!』
フフーン、と笑う木兎。
『教えてもらったばっかりだからっ。』
『いつ?』
『今日、さっき…まだ、いるかなぁ?』
廊下の窓からこっそりと中を覗きこむ姿は、
まるで女子更衣室を覗こうとしている
男子高校生とかわらないようで、笑える。
『あ、いたいた!オイカワ、見て見て、
あの、ほら、本棚の向こうのさぁ、』
俺も、木兎の横から覗きこむ。
『どれ?…あぁ、あれ?あのひげもじゃ?』
『そうそう、あの暑苦しいひげもじゃの…
って、んなことあるかーいっ!
あれは男だろ、俺はノーマルだっ!』
あぁ、もう、木兎。
面白いったらありゃしない。
『女だよ、女!
ほら、あの、ひげもじゃの向こうにいるだろ、
髪の長い、メガネかけてるさぁ、』
本当は、スグにわかった。
ひげもじゃと間違うわけ、ない(笑)
紺色のジャージに白衣を羽織り、
足元はスリッパ履き。
長い髪を後ろでひとつ結びにし、
細い茶色のフレームのメガネは
いかにも知的なオーバル型。
…違和感。
木兎の好みとは、逆じゃないか?
『ね、コタローちゃん、彼女、何者?』