第1章 ～二番目の、恋～ (及川 徹)

『…及川は、』

殴りかかってこないかわりに、
岩ちゃんは、口を動かし始めた。

『及川は、今でも俺の中で、
チョー すげぇ、最高のセッターだ。
及川の相棒だったことは俺の誇りだし、
及川と一緒に戦ったことは、
俺だけじゃなくて、チームみんなの自慢だし。』

…岩、ちゃん？

『仲間が日本代表になるかも、なんて
そうそう簡単に見られる夢じゃねぇ。
だから、
及川の全日本のユニフォーム姿ってのは、
お前にとっては現実的な目標だろうし
俺らにとってはすげぇ夢なんだけどさ、』

…卒業するとき、誓ったね。
"次にこの体育館に来る時はスターだ。"
"みんなの分まで、頑張ってくる"って。

『だけど、』

殴りかかってこない、岩ちゃん。
それはそれで、不気味。
でも、怖くはない。
だって、

『それ以前に、俺ら、及川の仲間だから。
だからもし、お前が
バレーより大事にしたい女と出会えたなら、
例えバレーよりそっちを選んだとしても、
俺らは文句、言わねぇよ。』

岩ちゃん…

『でも、お前はバレーが超すげぇ分、
他のことは全然、ダメだから、』

ちょっと、岩ちゃんっ？！

『もしバレーじゃなくて女を選ぶなら
…コイツがヒモみたいになっても
ちゃんと養ってくれるような
生活力のある女じゃねぇと。』

もうっ、岩ちゃんっっ！！

『…その点、医者なら、安心か。』

そろそろ俺も、口、挟ませて。
じゃないと…

木兎と綾ちゃんの前で
そんなこと言われたら、
俺の秘めた想いがダダモレに…

二人に、イヤな思いをさせてしまう。

『岩ちゃんっ、ちょっと感動したけどさ、
でも、俺と綾ちゃん、
つきあってるわけじゃないし、』

『…好きなんだろ？

バレーだけが取り柄なのに、
それを２番目にできるほど好きなんだろ？

女にだらしないのに、
彼女がボクトと別れるまで
手ぇ出せなかったくらい、好きなんだろ？

強がりばっか言うくせに、
ホントはそばにいて欲しいんだろ？

どーせナルシストな内容だろうけど、
弱音吐ける相手、やっと見つけたんだろ？

…いいじゃねぇか、それはそれで。』

(ちょいちょい織り込まれた悪口は
この際、見過ごすとして、)

俺はよくても。

綾ちゃんは、困るだろ。
木兎は、不愉快だろ。

…自然と、口をついて出たのは、