第1章 ~二番目の、恋~ (及川 徹)
こういう時、
岩ちゃんみたいなタイプなら
自主練でもしながら様子を見ようか、
それとも帰り道で心を探ろうか…とか、
あれこれ心配するんだけど、
木兎は、
よくもわるくも、
シンプルな構造だから(笑)
更衣室でシャワーを浴びてる時には
もうなんとなく、不調の原因は推測できた。
ザーッ…という
シャワーの音の向こうに聞こえてくる
木兎の鼻唄。
♪恋をしたぁの、あな、た、のぉ♪
ヘタクソなのに堂々とした歌声(笑)
…女、か?
いつも彼女が出来ると、
むしろ張り切って絶好調になるのに。
よりによってこんな大事な時期に、
調子崩すような恋愛、すんなよ…
他人の色恋話なんか
ちっとも興味ないけど、
木兎となると、話は別だ。
木兎の調子は、
チームにも俺にも関係あるわけで…
相棒のために、
一肌、脱ぐか。
シャワールームから出て来た木兎に
声をかける。
『コタローちゃん、不調の原因は、女?』
ギクッ(;゜0゜)と固まった顔が、面白い。
『…なんで、わかった?』
いやいやいや、すーぐ、わかるし(笑)
『…聞きたい?』
なるほど、聞いてほしい、んだね(笑)
木兎のこういうところが、羨ましい。
俺には全くない、"素直"という成分。
笑いを堪えながら、答える。
『聞きたい、聞きたい。
俺の大事な相棒を骨抜きにしたのは、
いったい、どんな女?』
ニヤーッ😁と笑った顔の中で
瞳がキラリと光る。
…あぁ、
クリスマス前の子供、みたいだ。
サンタに頼むプレゼントを決めた子供。
もう、
絶対手に入ると根拠なく信じてる、
キラキラした子供の顔。
"なんとかして叶えてやんなきゃ。"
…つい、そう思わせるところが
ホントにスゴイ、とつくづく、思う。
こっちはもう、ほぼ、親心(笑)
『あのさ、キョーテキなんだよ。』
『キョーテキ?…強敵?』
『そ。』
『なんで?』
『俺に、ゼンッゼン、
興味、なさそうなんだもん。
攻め方が、わかんねくってさ。』
…それはまた、
よりによって、
面倒くさいパターン、では?
そう思ったと同時に、興味も湧く。
あの木兎に
興味を示さない女。
…おもしろい。
どんな女、なんだろう。
思わず、言う。
『コタローちゃん、協力しようか?』