第1章 荒野に芽吹いた花の名は【信長】
すると秀吉は、
普段信長には見せないような甘い笑みを浮かべながら言った。
「それはもう、はしゃいでおりました。」
「………。」
自分で聞いておきながら、
自分の知らぬところで、美蘭が、秀吉とはいえ他の男にこんな甘い顔をさせていることに胸が騒いだ。
「フン。…初めて城を出たのだ。そうであろう。」
その後も、美蘭を連れて茶屋で団子を食しただの、秀吉から他愛ない話を聞かされた信長は、何故か益々不愉快になった。
そんな折。
「あの城下の活気をもたらしたのは、信長様の楽市楽座であることを教えましたらば、信長様はなんとすごいお方なのだ…と、美蘭が、いたく感激しておりました。」
秀吉のこの一言に、
信長様はピクリと反応した。
「…美蘭が?」
「はい。今もなお、美蘭は戦を暴力だと毛嫌いしておりますが。信長様が何を目指されて、戦を重ねておられるのか…いくばくか理解をした様子でございました。」
「………。」
面白くない。
この俺の前では、
いまだビクビクとしておる美蘭。
それが、
秀吉とは城下ではしゃいでいたと。
それが
この俺の施策を讃えていただと?
信長は、
美蘭の、今まで出会った女子とは全く違う反応をこれまで楽しんできたのであったが、
逆に、普通の女子たる反応を、自分はほとんど見たことがないことに気付いた。
実に面白くない!
俺の前でも自由にはしゃげ!
俺を讃えるなら堂々と、この俺に伝えに来い!
「秀吉。彼奴(あやつ)を呼べ。」
俺のあずかり知らぬ美蘭の姿。
そんなものが存在するなど許さん。
信長は、
胸に何かがグラグラとたぎるような、なんとも言えない気持ちで、秀吉に美蘭を呼び出すように言い渡した。