第4章 友という花の名は①
「…で?あんたは何で貰い泣きしてる訳?」
家康の、ため息混じりの一言で、
美蘭は、
「わ…かりません…っ…。」
自分が涙を流していることに気づいた。
500年先の日本から、なんの覚悟もなくこの戦国の世に飛ばされて以来。
文化や習わし、常識…そうした目に見える違いは元より、忠義や、戦う意思といった見えない違いにも驚かされてきた美蘭。
信長に戦地に連れ出され、戦いに敗れ次々に生き絶えて行く人々を目の当たりにし、
正直ここは、なんと不幸な時代なのか…と、思った。
だが、
今、目の前に示された夫婦愛は、時代など超越していた。
この時代にも、自分が共感出来ることもあるのだ…と。
わかり合うのが困難に感じるこの時代も、人の心根や心情は同じなのだ…と。
暖かく迎えられているのに、埋めきれず苦しんでいた心の隙間に、言葉に出来ない、何かあたたかい感情が流れ込んできたようで。
先の見えないこの戦国の世を生きて行くための力が、満ち溢れてきたようで。
気付いたら、涙が流れていた。
「具合でも悪いのか?」
「美蘭様?!大丈夫でございますか?」
心配性の秀吉と三成。
「自分が泣く理由もわからぬとは…頭でも打ったか。」
心配しているのかしていないのかわからない、だが恐らく気にかけてくれている光秀。
こんな状況でも顔色ひとつ変えない家康は、
「何に感傷的になってるのか知らないけど…。そんなひ弱な神経じゃ、この戦国は生きて行けない。」
真っ直ぐ過ぎる物言いは、時に胸に刺さることもあるが、彼なりの気遣いであることがわかってきた。
「いいえ。」
「「「「 …? 」」」」
「わたしは感傷的に、戦国を生きます!」
まだまだわからないことばかりだが、自分が思うままに、ここで生きて行こうと思えた美蘭は、
涙乾かぬ満面の笑みで、そう宣言した。
すると
「…っとに。面白い女。」
吹き出しながら、政宗は美蘭の髪をくしゃり撫でた。
政宗の体温に、生きている実感を感じつつ、
ワームホールが現れるまでの日々を前向きに過ごそう、と
美蘭は決意を新たにしたのであった。