第4章 友という花の名は①
「…?知り合いか?誠一郎。」
「恐れ入ります、秀吉様。此奴はわたくしめの妻にございます。」
武将たちとともに天主から現れた、素朴で爽やかな好青年…といった印象の武士は、秀吉の問いに、丁寧に答えた。
「え?こちらの方が結衣さんの…?」
目の前のやりとりを見ていた美蘭が、結衣に問いかけると
「美蘭様、誠一郎と申します。妻が何かご面倒を?」
結衣ではなく、誠一郎が、心配げな顔で質問を返してきた。
「違います!針子仲間になった結衣さんに、お城の中を案内してあげていただけですから!」
美蘭が必死に、誠一郎そう答えていると、
その横で
「世話になっていたのは美蘭かも知れんぞ。」
「まあ揶揄うな、光秀。結衣…とか言ったな。美蘭は友達が少ない。だから仲良くしてやってくれ。」
「ああ…それもそうだな。誠一郎の妻ならなんの問題もない。」
光秀、政宗、秀吉が、結衣にそう話しかけていた。
「こ…ちらこそ…っ…。よろしく…お願いいたしますっ。」
結衣は、ますます恐縮した様子で、武将たちに深々と頭を下げた。
「…結衣さん?大丈夫…?」
泣くのを耐えているような結衣の様子を見た美蘭は、心配で結衣の背中に手を回しながら言った。
「これ結衣。そのような顔をしていては…皆様がご心配なさるであろう?」
そんな結衣に、誠一郎がたしなめるように言うと
「ごめんなさい…。貴方がみなさまに認めていただいていることに…感激してしまって…っ…。」
それは更に、結衣の涙を誘って仕舞ったようだった。
「まあ良いではないか、誠一郎。」
「…秀吉様。」
「夫思いの妻とは素晴らしい。そうして支えられているから、おまえも良き仕事をこなせるのであろう。今日はもうここで、帰るといい。」
秀吉に促され、
三成が誠一郎が抱えていた書簡を運ぶのを引き受けると、
「それではお言葉に甘えて…失礼いたします。」
「美蘭様…ありがとうございました。」
誠一郎と結衣は、
仲睦まじい様子で、帰って行った。