第33章 捕らわれた未来(6)
部屋に戻った私は不安を拭うように、まだ微かに香りが残る家康の羽織を抱き締める。
目を瞑ると、最後に抱かれたあの夜の出来事が蘇り、胸が熱くなった。
(そう言えばあの時、佐助君…しばらくは安土から離れるって言ってたけど……)
ふと、出陣前夜に忍び込んだ佐助君の会話を思い出す。
「のこり一ヶ月弱で、ワームホールが出現する。だけど場所が最近不安定に変化してて……特定がまだ出来てないんだ」
「あのねっ!その事で佐助くんにずっと言わなきゃって思ってたんだけど…….私、この時代に残ることにしたの」
「……えっ」
「……大切な人が居るの。どうしてもその人と離れたくないの」
「それを逃したら、二度と現代にかえれなくなるかもしれない……それでも?」
「うん。折角色々と調べてくれたのに……ごめんなさい。……でも、私は戻らない。元の世界にはもう……」
「そうか……。解った。俺はしばらく安土を離れるからしばらく会えなくなるけど……でもこれだけは覚えといて、俺は何があっても君の味方だから」
あの後、家康の足音に佐助君はすぐ気がついて姿を消しちゃったけど……もしかしたら今回の戦と何か関係してたのかもしれない。
(……家康)
私は立ち上がり、
障子窓をゆっくりと開ける。
すると部屋の中にひんやりとした空気が漂う。
月を見上げその場に座り込むと、胸の前で祈るように手を組む。
離れていても空は繋がってる。
もしかしたら今、家康も同じ月を見ているかもしれない……
そう思うと少しだけ心が落ち着く。
夜風で耳飾りが
シャラン
と小さく音を立てながら揺れる。
何だかそれが、
とても切ない音に聞こえた……