第33章 捕らわれた未来(6)
家康が戦に出てから、私は針仕事の注文を沢山受け、その合間に弓の稽古や、政宗に料理を教えて貰ったりして、淋しさを紛らわすように忙しい毎日を送っていた。
「先ほど三成から連絡が入った。まだ、合流はしてないようだが、家康は支城を守りきり、鮮やかな手腕で今もなお敵陣を追いついめ、全滅させる勢いで…刀を振るっておるそうだ」
「どうしてっ!支城を守りきったのなら、もう……」
信長様の言葉に、私は思わず声を上げる。
「……戦とはそういうものだ。ただ、守りきればいいのではない、その先の事も見越して敵の戦力を叩き潰す必要がある」
まるでそれが当たり前だと言うように、信長様は無表情で話す。広間に居る皆も同じ考えみたいで、私以外声をあげる人は居なかった。
(……平和な時代で育った私には、きっと理解出来ない)
田畑を燃やし、住む所を奪い合い、時には小さな子供でさえ犠牲に……
そんな戦の指揮を今、家康が取っているなんて……
教科書で習った程度の私では、その重さはきっと計り知れない。
(きっと戦場は私が想像するよりも遥かに、悲惨で、悲劇で溢れている)
私はギュッと手を握りしめる。
考えれば考えるほど、それは辛いものでしかなかった。
「ひまり」
広間から出ると、真っ先に秀吉さんが歩み寄ってくる。
「……大分顔色悪いぞ。大丈夫か?」
「……うん。ちょっと色々考えちゃって」
でも、もう大丈夫だから。と無理やり笑顔を作る私に秀吉さんは息を軽く吐くと、あまり無理するな。と優しく頭を撫でてくれる。
「家康が居なくて寂しいのは解るが……あまりこん詰め過ぎないようにな」
「うん。でも、今は何かしてた方が落ち着くから」
ただ、待ってるだけなんて私には出来ない。
今、この一瞬一瞬でも家康が命を賭けて戦場にいるって思うと……何もせずじっとなんてしてられない。