第4章 贈り物
第四章「贈り物」
御殿の離れにある台所から、
心地良い一定のリズムが鳴り響く。
「ごめんね、三成君にこんな力仕事頼んでしまって……」
目の前で、杵を力強く振り下ろす三成くんの姿。涼しい表情を浮かべながらも額に汗が滲んでいるのを見て、申し訳ない気持ちになり声を掛ける。
「気にするな。三成は少々運動不足だ。鍛えるのには丁度いい」
「はい……それに、私が好きでお手伝いしてるのですから、どうぞ気になさらないで下さい」
「三成くんは本当に優しいね!」
「優しいのは三成だけじゃないだろ、ひまり?」
「政宗も優しいよ!時々意地悪だけどっ!」
そんなやり取りをしている間に、お餅はどんどん柔らかくなってきて……
「うん!これぐらいで、いいかな?」
火傷しない様に気をつけながら、つきたての餅を一口サイズに千切り中にこし餡を包める。仕上げにきな粉と白砂糖をまぶすと、台所にほんのり甘い香りが漂った。
「……まずは、味見だな」
政宗は完成したきな粉餅を一つ頬張る。
「……うまい。餅の柔らかさも、餡の甘さも丁度良い。ひまり、上出来だ」
「ありがとう!政宗が餡の作り方教えてくれたおかげだよっ!三成くんも本当にありがとう!」
「いえ、ご協力出来て良かったです。……家康様の大好物ですから、きっとお喜びになると思いますよ」
三成くんは、額の汗を行儀よく手拭いで拭き取りながら、優しく微笑む。私はその隣で、完成したきな粉餅をお重の中に綺麗に敷き詰めると、着物のハギレで作った黄色の小花柄の風呂敷に手早く包んだ。
「……で、家康宛に来てた大量の文は、本当に見てないのか?」
政宗はわざとからかうよう口調で、聞いてくる。今朝、料理を教えるかわりに、理由を教えろと政宗に詰め寄られ、しぶしぶ事の成り行きを話してしまった事に凄く後悔した。ただ勘違いをして、稽古中に迷惑をかけたお詫びに何か贈りたい。って簡単に話したつもりが……それだけで、政宗には伝わったみたい。
「勝手に人の文を見たりしないよっ!」
そもそも文の中身が気になったんじゃなくて、返事を書いていた事が気になって……
(……うん?……そう言えば、何で気になったんだろう?普通は文を送ってきた相手を気にするよね……?)