第30章 捕らわれた未来(3)
騒ぎから遠ざかるように、少し離れた庭先まで足を運び、夜風を火照った身体に浴びる。心地よい風がちょうど吹き、髪を無造作にかきあげる仕草して頭を動かす。
丸い月を久々に見上げ、素直に綺麗だと思えた。
「……らない。……せ…い……もう…」
「……かった。……み…かた……ら」
不意に奥の方から誰かの話し声が聞こえ、暗闇に視線を落とす。
(この声は……)
ひまり。
(もう一人誰か居る……)
ガサッ……。
確かめようと芝に足を踏み入れた瞬間、酒が入っていたせいか少しふらつき、微かに音が鳴る。
「………!家康っ!」
その音に気づいたひまりは、
振り返り俺に向かって一目散に駆け寄ってくる。
(……誰もいない)
その背後にはただ木が立っているだけ。
誰の姿も見当たらなかった。
「どうしたの?まだ宴の最中だよね?」
「ひまりこそ、こんな所で何して……」
「少し夜風にあたりにきてて……」
「さっき、話し声みたいなのが聞こえたけど」
「えっ……き、気のせいだよっ!ちょっと独り言話してただけだよっ!」
明らかに慌てた様子のひまりに、
眉間にしわを寄せる。
「……独り言?」
「うん……月にお願いしてたの。家康が無事に戦から帰ってきますように、って」
そう言って切なげに目を伏せるひまり。その表情は決して嘘をついているようには思えなくて……俺はそっと抱き寄せる。