第30章 捕らわれた未来(3)
出陣する前夜、安土城の大広間で宴が開かれ、戦の勝利を願掛けし盃を交わし合う。
「家康、今回の戦の勝利はお前にとって、価値のあるものになる。心して挑め」
「解っています。必ず支城を守り、反撃の余地などないぐらい叩きのめしてきます」
「……心行きは相変わらずお前が一番良いな」
信長様は満足げに笑うと、俺の盃に並々と酒を注ぐ。
俺は一気にそれを飲み干すと、この場にいないのを知りながらも、ひまりの姿を無意識に探す……
今までの俺はただ自分の国と自分自身を強くする事しか頭になかった。今まで踏みにじってきた奴らを見返したくて、我武者羅に武功を立てようとした。
(でも今は違う)
守りたいものがある。
欲しい未来がある。
戦って戦って……その先にあるものが戦いだけではなく、他に何があるのかを見つける為に俺は行く。
「……良い顔するようになったな、家康」
「まぁ、これもひまりのお陰だな」
相変わらず兄貴ぶる秀吉さんと政宗さんはそう言って、俺の肩を馴れ馴れしく組み笑みを浮かべる。
「お前が居ない間に、ひまりが心変わりしない保証はどこにもないぞ?」
相変わらず嫌味しか言わない光秀さんは、酒には手をつけずお膳の上の料理を口に運ぶ。
「後方支援は任せて下さい。書簡を後でお持ちしますので」
「……さっき秀吉さんから聞いた。助力はいらないってあれほど念を押したんだけど」
「家康様のお力になりたい、と私から申し出ました」
相変わらず嫌味が通じない三成は俺の隣でニコニコ陽気な笑みを浮かべ、また長々と話をはじめる。
俺は諦めたように溜息を吐くと、酒が回ってきた身体を冷やそうと席を立つ。