第26章 飴細工 前編
カランコロンと下駄を鳴らしながら、門の前で背中を預ける家康の姿を見つけて、私は足を早める。
「遅くなってごめんねっ!」
呼吸を整えながら手間取ってしまった事を謝ると、家康は今来たばかりだから気にしなくていい、と言って私の頭に優しく触れる。
(あっ……家康も浴衣だ)
深い緑の浴衣に辛子色の羽織を纏っている家康の姿を見て、私の胸が大きく跳ねる。
(格好良い……)
普段の家康よりも大人っぽい感じがして、いつもと違う雰囲気に私は思わず見惚れていると、不意に顎を持ち上げられた。
「髪……上げてるとこ、初めて見た」
「あっ、うんっ!浴衣だしこっちの方が良いかなって……」
変かな?私が上目遣いでそう言うと、家康は一瞬驚いたように目を開き、目線だけ横に動かす。
「……想像以上に……可愛い」
何故か少し拗ねた様な声で、家康はそれだけ言うと私の手を取り歩き出した。後ろから見える家康の赤くなった首元に、胸がキュンとして……
「誘ってくれて、ありがとう」
小さな声でお礼を言うと、私は熱くなった頬を歩きながら家康の腕に少しだけ引っ付ける。
「家康も浴衣……素敵だよ」
「……どうも。ってか、はぁー。もう既に……自身なくしそうなんだけど」
家康の言葉とため息は、近づく城下町の騒ぎ声で掻き消され……私の耳には届くことはないまま。
「りんご飴とかあるかな?たこ焼きはきっとないよね……」
「たこやき?それ何?」
「へ!?えっと……その……あ!屋台いっぱいあるかなぁ〜」
ついうっかりこの時代にはない食べ物を口にしてしまい、慌てて話題を変える。今夜のお祭りの事を家康に聞いたりして、私達は他愛のない話を繰り返しながら、祭りの会場に足を運んだ。