第26章 飴細工 前編
部屋の床に敷き並べた、色とりどりの浴衣を見ながら、頭を悩ませる。
約束の時間が刻々と近づくにつれ、まだ襦袢姿の私は焦りつつも、ジッと床に並んだ浴衣と睨めっこしながら、今日着ていくものを慎重に選んでいた。
(う〜〜ん……桃色も素敵だし、でも家康なら暖色系の方が好きかな?)
そう、かれこれ二時間ぐらい頭を悩ませながらも、胸は踊り騒ぎそうな程ドキドキしてる。
ーー明日の夜、城下町でお祭りがあるから………一緒に行こう。
昨日、家康は帰り際にわざわざ部屋まで来てくれた。
何日かぶりに会えただけで充分嬉しかったのに、ようやく信長様から与えられた大量の仕事のきりがついたからって、誘ってくれて……
(折角だから、家康に少しでも可愛いって思って貰えるように、いっぱいお洒落して行きたい)
私はさんざん悩んだ後、一枚の浴衣に袖を通す。選んだのは桃色の生地に白い小花が散らされたもの。可憐で清楚な雰囲気で夜にも映えると思ったから。
「ふんふんっ〜♪……よし!出来た!」
恋人同士になってから、初めて二人で出掛ける大事な日に胸を躍らせながら、私は滅多に結わない髪を上げ、家康に貰った耳飾りを付けて、仕上げに薄っすらお化粧をしてから部屋を飛び出す。
「おっ!えらくめかし込んだじゃねーか」
「変じゃないかな?」
廊下でばったりと会った政宗。私はくるくるとその場で回りながら確認して貰う。
「……似合ってる。家康に見せるのは勿体無いぐらいな」
なんなら、俺と行くか?と政宗の冗談に私は笑いながらお礼を言ってその場を後にする。
「……結構、本気なんだけどな。どうやら家康しか眼中になさそうだ」
背後から微かに聞こえた声。
でも言葉はまでは聞き取れなくて、私はそのまま軽快なリズムで門に向かった。