第3章 ときめく時〜家康side〜
「実は………昨日、家康さん宛てにきた文を部屋まで届けるように、って女中さんに頼まれて。沢山あったから何の文か尋ねたら全部恋文だって聞いてっ……」
(確かに昨夜、文机にそれらしいものが置かれてた気はするが……)
今までまともに目を通した覚えはないし、前に女中達にせめて読むだけでも、と言われ仕方なく2、3度読んだ記憶ぐらいしかない。大体それと今日のひまりの態度と何が関係あるのか、俺には理解出来ない。
「……文の中を見たって事?」
「そ、それは見ていませんっ!例え見えたとしても達筆過ぎて私には読めませんし……見たのは、家康さんがお返事を書いている所ですっ」
「……返事?」
昨夜の事をふと思い出す。
「まだ、部屋の灯りが点いていたので少しお話が出来たらと思い、声を掛けたのですが……」
返事がなく、少しだけ襖を開けて覗いた時に、文を書いている俺の姿を見たと話すひまり。
(確か俺が書いたのは……)
「凄く、優しい表情だったので……
き、きっとお慕いしてる姫様でもっ……そう思ったら……っっ!!」
ようやく話が見えた俺はひまりが言葉を言い終わる前に、腕の中にその小さな身体を閉じ込めていた。
「……ばか」
「えっ///」
ひまりの柔らかい髪に手を絡め、甘い香りに誘われるように埋めると俺は安堵の息を吐く。つまり俺がどっかの姫様の事が好きで、文の返事を書いていた事が、気になって仕方なかったと。本当、勘違いもいいところ。
「……あんたほんと、ばか。自分で何気に凄いこと言ってる自覚ないの?俺が、書いていたのは……」
俺はひまりの身体をゆっくり離すと、懐から折りたたんだ白い紙を取り出す。それは昨夜ひまり宛に書いた薬の処方の文。
「家康さん……これ……」
「達筆で読めない、とは言わせないから……あと、いい加減、敬語とそのさん付けで呼ぶのやめて」
ずっと言いたくても言えなかった言葉が珍しく俺の口から素直に流れる。
ほら、練習と言うとひまりは顔を真っ赤にしながらも
「い…い…えや……す」
たどたどしく、俺の名前を呼んだ。