第167章 はじまりの物語
追いかけてくるひまりの足音。
わざと早く歩き、振り返らない。
「家康っ!待ってよ!」
その声を聞いて、頬の筋肉を仕方なく緩める。俺はやっと振り返り足を止めた。
軽いお仕置き。
俺の気持ち全然解ってないから。
「もう!置いてかないでよ……」
鞄で俺の背中を軽く叩き、俯くひまり。その態度は何か言いたいけど言えない時の癖。
(まぁ、どうせ受け取るぐらいしたらとか、言いたいんだろうけど)
いらないし。
好きな女から以外は。
「……ばーか」
「また、すぐ……あっ!政宗!」
スッ、ひまりは途端に明るい声を出し前を歩いていた男に手を振り駆け寄ってゆく。
「おっ!お前も帰りか?」
「うん!!」
いきなし、呼び捨てとか面白くない。
何で初日で仲良くなってんの。聞きたいことがあり過ぎて悶々とする俺とは打って変わって、政宗ってヤツと嬉しそうにクラスの話をするひまり。
「ひまり、帰るよ」
「ちょっと待って!」
通り過ぎる寸前、ブレザーの裾を引っ張られ……足を止める。
「ほら家康、覚えてる?合格祈願に行った時に寄った喫茶店の!」
よっ!と馴れ馴れしく肩を組まれ、一応覚えてるとだけボソッと返事をする。するとひまりは一人ではしゃぎ、また今度行くからとか勝手に約束をしだして……
「ねぇ!折角だし、三人で帰ろう!」
「なんで、こんなヤツ……っ!」
「文句言うんじゃねえ。ほら行くぞ」
帰る方向が三人一緒。必然とそうゆう流れになり、文句言う暇もない。しぶしぶひまりを真ん中に挟み、俺達は歩き始めた。