第167章 はじまりの物語
住宅街。
時刻はまだ5時前。
オレンジ色に染まった道を歩きながら、冬の日が短いのをひしひしと感じる。
(寒い〜〜)
昼間より断然厳しくなった寒さに、私は身を縮こませながら歩き家康の家へと向かう。家康の家と私の家は二軒挟んだだけのご近所さん。だけど、家康の家はこの住宅街でもかなり有名な超豪邸。
広い庭園に、白く塗られた外壁、二階建てでも軽く私の家の倍の大きさはある。和モダンのお洒落な家。
だから小さい頃から何度来ても、
つい緊張してしまう私。
「お邪魔しまーす!………あれ??」
いつも優しい笑顔で、出迎えてくれるおばさんの姿がない。
「……言うの忘れてた。父さんと母さん、旅行に行ってるから居ない」
「えっ!居ないの!そんな……困るよ」
「……何?もしかして、少しは意識……」
「だって!おばさん居なかったら、美味しい晩御飯がご馳走になれない……っ!」
必死に訴える私。
家康は露骨に呆れたような顔をして、盛大なため息を吐くと家の鍵を下駄箱の上に置いた。
「……勉強教える条件に、晩御飯作って貰おうと思ったんだけど」
「え?そうなの……?」
「逆に晩御飯期待してるとは、ね」
家康はもう一度重たい息を吐きながら、靴を脱ぎ私を置いてリビングに。
(なら、最初から教えてくれたら買い物出来たのに……)
そう思いながら、私もリビングに向かった。