第167章 はじまりの物語
家康に腕を引っ張られたまま、赤い砦を潜る。
「ちょ、ちょと痛いよ!」
「……ひまりが悪い」
私が悪いの?疑問に思った瞬間、家康は突然手をパッと離し、ある一軒の店の前で立ち止まった。
和モダンの喫茶店。ウィンドウに飾られた和風雑貨に、思わず私は夢中になる。
「可愛い〜。ちりめん素材の雛人形もある!」
「……ちょっと、休憩。人混み酔った」
「うん!」
京都の茶屋に似た雰囲気の店。
中学生の私達にも入りやすい感じがして、私はご機嫌で店内に入る。
「いらっしゃい」
落ち着いた店内。作務衣姿の主人さんに、好きな座席に座るように言われ一番奥の席に腰掛ける。
机の上に置かれたメニュー表と睨めっこしていると、ある文字に目が止まった。
期間限定
『ひな祭りケーキ』
その「ひな祭り」の文字に私は飛びつく。
「ねぇ、ねぇ!ひな祭りケーキだって!ちょっと大っきいから半分こしようよ!」
「やだ」
「え〜〜っ!美味しいそうなのに……」
私が残念そうに言うと、お水を運んで来てくれた店員さんが、クスリと笑った。
「コレ、この店の息子さん手作りケーキなんですよ!良かったら小さくして提供させて頂きます」
「本当ですか!なら、コレお願いします!」
「俺、野菜ジュース」
店員さんの言葉に甘えて、ケーキを注文。