第167章 はじまりの物語
「後で腫れてくるかもしれないから、ハンカチ貸して」
「う、うん」
私は言われるまま、カバンからハンカチを取り出し家康に手渡す。そのまま近くの手洗い場の蛇口で、ハンカチを濡らすと再び戻って来て……。
「座って」
近くのベンチに腰掛けた。
「いいよ!自分でするから///」
「いいから、座ってて」
家康は私の足元に屈み、冷たくなったハンカチを赤くなった部分に当てる。
「……ありがとう」
「ったく、只でさえドジで危なっかしいのに」
「だ、だって早くしないと置いてかれると思って!」
「散々、毎日耳にタコが出来るぐらい合格祈願は絶対に一緒に行く、って言われたら置いてけないし。後でもう一回行けって言われたら面倒臭い」
素っ気ない台詞。
でも、何だかんだ言って家康は優しい。
「あっ!良く考えたら、受験前に転んだら縁起良くないよね!良かった〜」
「俺は余裕だけど。ひまりはギリギリだしね」
「なら明日、勉強教えてよ!」
「やだ。忙しいし」
「ケチッ!一緒の高校受験するんだから、ちょっとは教えてくれたって良いのに!」
私と違って成績優秀の家康。この前の三者面談で先生に最難関の高校進められたって、おばさんが言ってた。
「ねぇ?家康?どうして附属高校に受験しないの?」
「通うの面倒いし、あそこは弓道部ないみたいだし、ただそれだけ」
「……私も一度で良いからそんな台詞、言ってみたい」
淡々と答えた家康。
私は肩を落としたようにしょげる。
すると家康はスッと立ち上がり……
「………教えてあげるから、そんな顔しなくていい」
「へ?」
思わず出た間抜けな声。
緩くなったハンカチを当てられたおでこ。
「まずは、参拝。ささっと行くよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ〜!」
私はベンチの上に置いたカバンを掴み、追いかける。
家康はマフラーを鼻先まで上げ、寒い。と、一言。
(寒い?目元は赤いのに??)
「目の前で転けないでよ。それこそ、縁起悪い」
「もう!転ける、転ける言わないでよ!私は家康と違って、本当に偏差値ギリギリなんだから!」
「……ひまり。前見てないと、足場悪いから滑るよ」
「〜〜!!」
八割天邪鬼。二割優しい。
そんな私の『幼馴染』