第167章 はじまりの物語
約束した時間の20分後__
私はやっと、待ち合わせの場所に辿り着く。ずっと走っていたから息もだいぶ乱れて、身体も真冬とは思えないぐらいに温まっていた。
(待ってくれてるかな?)
短いメールには置いていくとも、待っているとも書いてなくて……私は少し不安になり辺りを見回す。
すると広場の階段を登った先。
そこの時計台の柱に、背中を預けてる家康を見つけて……パン!と、両手を合わせた。
「遅れて、ごめんね!」
ズボンに両手を入れマフラーに顔を埋めている姿を見て、絶対に怒ってる!真っ先に謝る。家がすぐ近所なのに、急に待ち合わせしたい!なんて我儘言い出して、その上、遅行するなんて……情けなさすぎる。
「すっごく、反省してるからっ」
「……………」
ぎゅっと目を閉じ、何度も謝る。理由はただの寝坊。言い訳なんて言えないし、言うつもりもない。もう一度最後に「ごめん!」って謝ったけれど、何の反応も言葉も家康からは返ってこないまま。
私は閉じていた目をそろ〜っと、開けると綺麗な翡翠色の瞳がじっと見ていて、やっと口が開いた。
「……ばーか。走るなって俺メールしたよね?なのに何で怪我してるわけ?」
(へっ?怪我?)
その言葉に私はキョトンとする。
「……もしかして、この膝のこと?ちょっと駅のホームでぶつけただけで」
それから自分の膝を軽く持ち上げた。
血は出てないし、ちょっと赤くなっているレベル。
言われないと解らないぐらいの怪我。