第166章 天邪鬼な君へ〜集大成〜
藤色の羽織。
それが二つ重なるように、ひらひら揺れ……
「……うっ」
「これで、解って貰えましたか?口づけをしたのは、貴方からだと」
「あ、あんなの!たまたまなんだからっ!」
藤の簪が、栗色の髪から流れる。スラリとした白い指先。それが、その栗色の髪を両耳に掻き上げると……シャランッ……。
時を繋いだ耳飾りが音を立てた。
「私は嘘を吐いたりしません。だから、無闇に時を越えるのは止めて下さい」
「わ、解ったわよ!だったら早くお父様を説得するか………私を攫いに来なさいよ」
語尾の部分だけ小さな声で呟くと、それ以上は動かなくなった桜色の唇がキュッと締まる。そして藤色の瞳が瞼を閉じると、桜の木の枝が隠したのは重なる二つの影。
「正式に、貴方を迎えに行きます。必ず待っていて下さい」
真剣な物言いをしたその声を、何かを弾く力強い音が搔き消した。鼻先に火薬の匂いがツンと届き……何かが炸裂した瞬間。ひまり達は夜空を見上げる。
その頃には、
木の上には二つの影は消え……
代わりに夜空には、大輪の花が咲いた。