第23章 はぐれた心の先に…(14)※R15※
「家康……」
柔らかい声でひまりは大切そうに俺の名前を呼び、吸い込まれそうなほど、澄んだ綺麗な瞳が揺れる。心臓の音……それを見ているだけでどうにかなりそうなぐらい高鳴るから、ほんと困る。
近くにあった可憐な花の一輪。俺はそれを丁寧に摘むと、掻き上げた方のひまりの髪に添えた。
「………綺麗だ」
あの夜、言えなかった言葉が溢れる。
「あの時、そう言いたくて必死に我慢した」
だから、見ないように後ろから抱き締めて自分の気持ちを誤魔化した。必死に何もかも。
「……でも、もう我慢はしない」
我慢なんてしてあげない。
今度は突き放す為じゃなく、
素直な気持ちを伝える為に、
真っ直ぐにひまりを見る。
「弱いくせに必死に頑張る所が意地らしくて、こっちが必死に突き放そうとしてるのに、気づいたらいつも側に居て……他愛のない事で笑う姿が可愛くて……」
俺の心をかき乱して。
踏み込んで。
馬鹿みたいに素直で。
他人事でも自分の事のように感じて。
泣いたり、笑ったり。
苦しんだり、喜んだりするひまりが……
(欲しくて堪らない……)
前も今もこれからも。