第165章 あなたにもう一度〜最終章〜後編
私は、恐れたのかもしれない。
もう一人の偉大な徳川家康を、消してしまったことが。
それでも、どうしても手離せなくて。
一番の我儘を言った。
「家康の全てをっ……私に下さいっ!」
強引に頭を掴まれ荒っぽく胸の中に押さえられても、今の私には嬉しくて仕方なかった。
「……………あげる」
頭のてっぺんからつま先まで。全部の感情をもった心も……これからの俺も……。
「全部ひまりのモノだよ」
家康は私にしか聞こえないぐらいの声量でそう言うと、ぎゅっと掴んでいた頭を抱え、もう片方の腕を背中に回した。
「……っ…ちゃ…んと幸せ…にするから」
まるで、逆プロポーズ。
自分でも驚くぐらい、凄いこと言ってるのは解ってる。後で思い出して、恥ずかしくなるのが想像できるぐらい……でもそれでも良い。それぐらい家康が欲しかったから。
「………もう、十分に幸せだけどね」
家康は体を少し離すと涙で引っ付いた私の横髪をくしゃっと掴み、おでこをくっつける。
でも、まだ足りないかも。そうボソッと呟くと私と目線を合わせ、言葉を繋いだ。
「…………俺を今よりもっと……倖せにして下さい」
翡翠の石と同じ色の瞳。
私の中の全てがその色に震える。呼吸も肩も指先も震えて、自分が今どんな体勢をしているのかわからなくなる。
私達はおでこをくっ付けたまま、至近距離で暫く見つめ合う。それから……スッと家康の顔が横に傾くのと同時に私はそっと目を閉じた。
目を閉じて口づけを交わす……
その僅かな時間に。
突如頭の中で映像が浮かび上がる。