第164章 あなたにもう一度〜最終章〜中編
ひまりはきっと、野原に居る。
朝一番に向かった時は居なかったが、何故か今は無性にそんな気がした。
「家康、そう急ぐでない。嘘だと解ったんだ……落ち着け」
「まだ決まったわけじゃないし。それに上杉が来てるなら、尚更急いで!……ちょっ!」
馬に乗って佐助と一緒に背後から追いかけてきた信長様に、首元の襟を掴まれ。
俺は足を止める。
「安心しろ。佐助の話では、上杉は城下町をうろうろしておるらしい。今頃、秀吉達と遭遇してるかもしれん」
「あんた、何でそんなに落ち着いてんの?」
ゴンッ!
「っ!!」
「口の聞き方ぐらいいい加減、覚えろ」
俺は頭をさすりながら、睨むように一度視線を向け再び足を動かす。今、思い返せば信長様は朝から妙に落ち着いていた。
「……まさか全部知ってたんですか?」
わざとらしく敬語を使いそう尋ねると、訝しげに眉を寄せ知っていたら探しになど来ない。と、いつもと変わらない口調で返ってきた言葉。
「ただ数日前に、可笑しな事を聞かれたからな」
「可笑しな事?」
自分には何一つ変わらない態度で接していたひまり。可笑しな行動も言動もなかった。
(ここ最近は、帰りが遅かったのもあるけど)
顎に指を添える俺に、信長様は口を開く。
「もしあの時、自分が元の世を捨てれず養女にならなかったら、どうなっていたのかと……そう、聞かれてな」
ーー何故、そのような事を聞く?
ーー……少し気になって。あの時は本当に迷いなんてなかったんです。勿論今もその気持ちは変わりません。ただ、もし信長様が架橋を作ってくれなければ……あのまま家康は築姫様と。
ーー今更、何を言い出すのかと思えば。そんなもん、俺に解るわけなかろう。家康にでも聞け。
ーー……ほんと、今更ですよね!ごめんなさい。変な事、聞いてしまって。今度、家康に聞いてみますね。