第163章 あなたにもう一度〜最終章〜前編
あれは一年程前の事__
秀吉と光秀は、近々奇襲をかける戦の件で険悪なムードを漂わせていた。
ーーどうかされたんですか?お二人共?凄い顔してますよ?
家康が長期の戦に行っている間、子を連れてひまりは暫く城に身を置いていた時の事だ。庭先で子供達が水浴びをして遊んでいる姿を、三人は一緒に眺めていた。
ーー今度の戦の件で、光秀と戦法が食い違いになってな。
ーーお前がマヌケな策を立てるからだ。
ーーお前の考えた策だと、人手が少な過ぎる!絶対に成功させる保証がない!
ーー勝敗は人数ではない。敵を油断させいかに素早く奇襲を掛けるかだ。
二人は今回協力しなければならない戦にも関わらず、意見が食い違いに揉めていたのだが、その頃ひまりは家康が戦に行っている事で只でさえ敏感になっていた時期でもあり……だからこそ、二人を見過ごす事は出来なかったのだ。
ーーそれだと!
ーー話にならん!
《バシャ!》
水を入れた酌をひまりは突然二人に目掛けて、浴びせると……。
ーー絶対に勝たないといけない戦なら、こんな所で揉めてないで、二人の意見を尊重し合える戦法を話し合って下さい!!
ーーひまり……
ーー私なんかが口出せる事じゃないのは解っています!でも……お二人には無事に帰ってきて欲しいんです!!」
目に涙を溜め、両手に拳を作るひまり。
ーー二人で一つの戦に向かうのなら、しっかりと向き合って歩み寄って、ちゃんと帰って来て下さい。何も出来ず、待つ身になって下さい。着いて行きたくても行けない立場も、少しは考えて下さい。
ひまりは戦に向かう皆んなを、見送るのがどれ程辛いか……喧嘩なんかしたまま向われたらどれ程心配かを、二人に伝えた。
ーー裏切り、下克上の戦国。仲間、味方も関係ない時代。……でも、だからこそ!本当に信頼し合えることが一番の強さになるのではありませんか?
その言葉は秀吉と光秀に深く心に残し、見事勝利へと導いたのであった。
「……絶対に見つけるぞ」
「……解っている」
秀吉と光秀が再びひまりの捜索を始めた時。
「!!!!」
城下町に居るはずのない、男を発見した。