第162章 あなたにもう一度(8)後半
後半に連れ、まるで焦らすような動きを見せるひまり。
肩に傘を乗せ、唯一露わになった白い頸を指先でゆっくりと滑らせ、綺麗な脚を一瞬だけ裾から出す。そして傘を大きく振りかぶり、後ろに投げると今度は羽織を脱ぎ、それを持ったままヒラヒラ舞い踊り始めた。
まるで天女の如く幻想的に表現され、可憐な花が少しずつ時間を掛けて咲き乱れていく……。
「あ、あんなの狐が化けたようなものじゃない!艶やかではなく、ただの妖しの舞いだわ!!」
「そうよ!顔も面なんかで隠して、誤魔化しているだけ!」
艶姫と取り巻きは騒ぎ立て、進行者の元へ行くが……相手になどして貰えない。
「まだ、演技中である!お静かに!!」
艶姫達は悔しそうに化粧で塗りつぶしたかを歪め、歯を食いしばりながら着物の袖を噛み締めた。
それを近くで見ていた三人。
「……惚れ直したのではないか?顔が赤いぞ家康」
「……放っといて下さい」
からかう信長に家康は口を尖らせながら、それでもひまりからは決して目を背けず真っ直ぐに視線を送り続ける。
「しかし、意外ですね。ひまりさんは、どうしても可憐なイメージがありますが……」
「……ほぼ、毎晩どっかの馬鹿に抱かれておれば自然と艶はでる。普段あまり見せないからこそ、仕草一つに滲み出てくるものだ」
肌を見せるだけが色香ではない。ふとした立ち振る舞いや、一瞬だけ見せる表情から艶は出るモノ。
「健気ではないか。一人の男しかその肌も表情も見せようとはせぬ所が」
フッと信長は笑みを溢し、家康の肩に手を置く。
「全て貴様の為。徳川の嫁として今回は参加したに過ぎぬ。ささっと連れて帰って存分に労ってやれ」
心配ばかりして守ろうとばかりする家康。
自分に自信を持てず不安になるひまり。
時には見守り、自信を持ち、お互いを信じ合う。
その心が、まだ二人に欠けていたモノ。
「……一人の男として一人の父親として教えといてやる。子育てもそれに当てはまるからな」
見事、演技を終えたひまりには盛大な拍手が送られる中、信長様の羽織を翻し夜の闇に消えて行った。
(……素晴らしい方だ。なのに何故!何故未だに信長様は独り身なんだ!!)
佐助は今回、永遠に理解できない謎を見つけたのであった。