第162章 あなたにもう一度(8)後半
艶やかな着物姿を着た姫達。
順に舞の披露を始めた。
着物の襟を大きく開く者も居れば、足元の裾を上げ捲りながら舞う者もいた。そんな中、一際目立ち、男達の視線を奪った者は……ひまりを挑発した、口元に黒子がある艶姫(つやひめ)。
「名の如く、今の所、艶姫様が一番良いですなぁ〜。あの黒子が何よりも堪らん」
「これは流石にひまり姫も歯が立たんでしょう」
(……後で、覚えてろ)
家康が冷たい視線を突き刺すと、いそいそと違う席に映る武士達。その様子を見ていた信長は口を開いた。
「……次だな」
「先ほどこっそり様子を伺いに行ったのですが、彼女やっぱり手の怪我も痛むようです」
「……………」
佐助の言葉を耳に入れ、家康は固く口を閉じたまま、冷たい風が吹き付ける舞台を険しい表情で見つめていた。
そして三味線の音が鳴り響き……黒生地の着物の上に鮮やかな紅色の羽織を纏ったひまりが現れ、その姿に会場が一気に騒つく。
「あ、あれは!!」
「な、何とも幻想的な!!」
ひまりは目元を狐の面で覆い、顔の半分を隠していた。見えるのは赤い紅を差した唇と、透き通る頸の白い肌。
ほとんどの者が扇子を使って舞っていたが、ひまりの手には赤い傘が握られ……怪我の負担を抑えていた。
「……何だ、全く肌を見せておらんというのに」
「隠されておる分、余計に艶やかさが増し唆られるではないか!」
きっちりした着物姿は肩も、足も覗くことはない。一瞬でも見れないものかと、逆にそれが男たちの目を奪い、釘付けにする。
それは家康達も同じで……
「……っ…」
言葉を失い、音に合わせ傘で華麗に舞うひまりから目が離せなくなっていた。