第162章 あなたにもう一度(8)後半
残すは、夜の舞踊。
弓術を勝利したとは言え、催しの一番花形となるのは本来は夜の部門。美しさ、品格、優雅さ、女らしさが必要であることから、勝利をすれば真の姫君として認められたことになる。
演目は統一。しかし課題が一つだけ与えられ……その中でいかに魅力と個性を引き出すかが重要であった。
「課題は夜に因み、艶やかさを競ってもらう!それでは、各自準備を整えて参れ」
(艶やかさって……ようするに、色っぽさって事だよね……?)
自分に一番足りない要素だと自覚していたひまり。
青い顔をしながら取り敢えずは着替えようと移動し始めた時、数人の姫達が突然道を塞いだ。
「あらぁ〜。ひまり姫様には少し荷が重い課題だったようですわね」
「いくら若くみえてお美しいとは言っても……子が居て二十五を過ぎている姫君では……ねぇ〜」
先頭に立つ姫君の口元にある黒子がキュッとあがり……鼻がツンと上に。
「色香にはほど遠いようですし、これを機に家康様も肩を落とされて……私達の中から側室を迎える気になるかもしれないわね?」
「やはり、殿方は可憐に咲く花よりも……褥で咲き乱れる花の方がお好きでしょうから」
「うふっ。何なら狐にでも化けて貰って、代わりに出場して頂いたらどうです?」
「……話はそれだけですか?準備がありますので、失礼します」
ひまりが頭を下げ過ぎ去ろうとした時、グイッと腕を掴まれ……行先を阻む。
「家康様を一人占めなんか、させないわよ」
ひまりは言葉を飲み込み、代わりにぎゅっと噛み締めた唇。
(絶対負けられない)
参加した理由が実はここにあったのだ。
木の上から見て居た佐助は、思わずメモを落としそうになる。
(ま、まさに昼ドラ……こ、これは女の戦い!!信長様が言っていたのはこの事だったのか!!)
助けたいが手を出す訳にもいかない。佐助は、祈るような気持ちで木の上から登りかけた月を見上げ……
(俺は夜に昼ドラの結末を、見届けることが出来るのか!!)
興奮し過ぎて、たた自分を見失った。