第162章 あなたにもう一度(8)後半
薬を取りに行こうと、女中が廊下に出ると……何やら襖に白い物が挟まっていた。
「ひまり様、襖の前にこれが……」
「もしかして、塗り薬……?」
ひまりは女中からそれを受け取り、薬に添えられた四つ折りの紙を開く。
「型をしっかり取れば、手の負担は減るから」
たったそれだけの文章。
でも今のひまりには、一番心強いモノ。
「ありがとう。……家康」
薬を握りしめ、そっと微笑みを浮かべた。
(流石、江戸時代を築き上げた人物!乙女心を遠回しにきゅーん♡ぎゅっ♡と掴むのが上手い!!これは男として学ばなければ!)
いつか参考にしようと佐助は念入りにメモを取ると、信長の様子を伺いに向かう。
「貴女も本当は心配なのでは、ありませんか?」
佐助は家康公と同じぐらい浮かない顔をした信長を見て、思わずそう声をかけた。
「……さては、見ておったな」
「すいません。お二人の行動は日頃から参考にしてますので、つい……」
昼ドラを見てる感覚で、観察していたとも言えずとりあえず佐助はそう答え、隣に座る。
「……心配か。まぁ、多少なりとはしておるだろうな」
信長は自分で自分を嘲笑うかのように、口端を吊り上げ……会場を見つめる。
「表向きは確かに織田家の姫として、参加しておる。……しかし、ひまりにも参加する理由があるから、な」
「えっ!……(それは、知らなかった)」
「貴様が屋根裏から去った後の話だ」
そう言ってニヤリと笑った信長。
(き、気づかれていたのかっ!!)
「では、決勝戦に参る!両者前へ!!
再び盛り上がる会場の音に、佐助はもう一つの理由を聞けぬまま再び現れたひまりの姿に視線を向けた。