第161章 あなたにもう一度後日談(8)
決勝相手の下部らしき者が突然背後から現れ、ひまりにわざとぶつかったと。咄嗟の事で受け身が取れず倒れこんだひまり。その倒れ込んだ拍子に手を負傷してしまったと聞き、俺は急いでひまりが控える部屋に向かう。
(ひまり!!)
「……待て」
あともう少しでその部屋に辿り着こうとした矢先。突然背後から首の襟を掴まれ……後ろに引き戻される。
《ドンッ!》
それから近くにあった部屋に連れ込まれ、突拍子もなく壁にいきなり押さえつけられた。
「離せよ!!」
「……ひまりの努力を無駄にする気か」
俺は咄嗟に大声を上げ、胸倉を掴まれた手を振り払おうとすると……信長様の冷たい眼がスッと細くなる。
「何を呑気にっ!怪我してたら、弓なんか握れる訳ないし!!今すぐ棄権するように………っ!!」
「……黙れ」
言葉が言い終わらない内に掴まれた胸倉に凄い力がかかり、そのままグイッと上に持ち上げられ……。
「今までその腑抜けな目で何を見ておったのだ?」
目の前に激しい怒りの感情を宿した瞳が迫り、負けじと睨み返す。
「見てきたよ!危なっかしくて、すぐ無理してバカみたいに頑張る所をっ!!」
そもそも、父親ヅラして下らない娘自慢なんかにひまりを参加させるから、こんな目に合ったんだと目の前の男を非難する。
「心配ばかりして守るだけが真の愛だと……貴様は思っておるのか?」
嘲笑うかのように、冷酷な声が耳元を掠めた。
その次の瞬間、
胸倉を掴まれた手が勢い良く離れ……
「勘違いするのも大概にしておけっ!!」
激しい感情の声が頭上に降り注ぐ。
「……っ」
「貴様のような阿保とこれ以上話す気にならん。とても同じ男であり父親とは思えんな」
そう言葉を吐き捨て、信長様は会場へと戻って行く。
(奥が深い!信長様は奥が深すぎる!!さぁ、家康公は今後どのような動きを!)
急展開に佐助は一人でハラハラし、ぎゅっと思い詰めたように自身の片腕を握り、俯く家康の姿を暫く見ていたのだった。