第158章 あなたにもう一度後日談(7)二日目の昼
「夫婦の砦」を同時に潜り、「円満の石」の祠に同時に辿り着いた時、二人の想いは一つとなり。
「夫婦円満」の御利益となる。
私は声に出して、祠の中に貼り付けらた紙を読み上げた。
「えっ!石が入ってる訳じゃないの!?」
てっきり大きな石でも祀られていると予想してた私は、驚いて隣に立つ家康を見る。
「………石は俺が持ってるから」
(え……?)
家康は着物の袂から小さな箱を取り出すと、私のおでこに口づけを落とす。
「家康??」
「………目、閉じて」
不思議に思いながらも、言われた通り目を閉じる。
すると、手をそっと持ち上げられ、薬指に冷たい感触が走った。
思わず目を開けると……。
「…………う、そ」
自分の薬指に光る翡翠の石。
「……この時代には指輪な、んて……」
無いはずなのに。
「ダイヤは流石に手に入らなかったけどね」
「……ど、……して」
声が震え、視界がぼやけ出す。
家康は少し照れ臭そうに笑い夢の世で色々と調べていた時、来世では指輪を贈るのが求婚の証だと知った。と、話してくれた。
「……この場所に円満の石が置いてあるんじゃなくて、円満の願掛けに男が石を用意するらしいから」
「……この場所のこと知ってた、の?」
「今日の俺が行きたい所、此処だったからね」
「……っ……うっ」
その言葉に涙がついに溢れ出す。家康は泣き出した私を自分の胸に押し付けた。
「ひまりの記憶がもし戻らなかったら、頃合い見てもう一度婚姻を申し込もうと思って……」
その為に用意してたからって。
もう一度一から始めようと。
また、自分のお嫁さんになって欲しいと。
そう伝えるつもりだったと、教えてくれた。
「……結局、記憶は失ってなかったけど、ね」
「……っ…ご、め……なさい」
「……ひまりが一番辛かったんだから、謝らなくていい。ただ二回も誤魔化されたから、今度こそちゃんと返事頂戴」
「……へん……じ??」
そう聞くと、家康は身体を少し離し私の手を持ち上げる。
「……これからも、俺と会って欲しい」
私は、思わず……泣きながら元気よく頷いた。